キョウダイ
第15章 守られる愛
柊斗side
「ねぇ、母さん。もう帰ってもいいだろ?」
俺は溜め息をついて、このビルの社長である母さんに声をかけた。
モデルの撮影はとっくに終わった。
俺が載るであろう、雑誌の関係者と挨拶して、愛想を振り撒いて顔を売る事も怠らずに、すぐに帰れると思ったのに。
「ちょっと会社に寄るわよ」
母さんの鶴の一声。
秘書である美人の女性がすぐに車を出して、俺も一緒に連れて行かれてしまう。
6階にある社長室に行くまでに、いろんな社員が母さんに挨拶をして、時には指示を出して、格好良く前を歩く。
何度かこのビルに出入りしているから、俺にも声をかけられる。
俺にも頭を下げる人もいるけど。
息子だからとゆう理由だ。
モデルをしてはいるが、そこまでの知名度や実力はまだないという自覚がある。
撮影する時に感じた事。
俺が今日着た服。
母さんの会社の人がデザインして、作って、それからいろんな会社の人が関わって行く。
雑誌の人やカメラマン。
その服を着た俺がアピールして。
そういう過程が興味深く感じた。
もっと知りたい。
ただ服を着て笑うだけじゃなくて。
今まで母さんが俺達の為に頑張って来たこと。
家庭を省みず、父さんに愛想を尽かされてまで、犠牲にしてきたものを。
ずっと知りたいと思ってたんだ。
「柊?ちょっと、これ、見て欲しいんだけど?」
社長室の大きなデスクの引き出しの鍵を開けて、大事そうにスケッチブックを取り出して。
本当にただのどこにでもある、スケッチブック。
ちょっと古びているけど。
表紙に『香住』、丸い字で名前が書いてある。
『香住』という名前に覚えがあった。
ページをめくり、イラスト画を二つ見せられる。
色はついてるけど、布地の素材とか細かい指定がある。
専門的な事は分からないけど。