キョウダイ
第15章 守られる愛
葵が大きくなるにしたがい、父さんと母さんの夫婦仲が悪くなっていた事を。
『あなたは葵に甘過ぎる!』
『息子達にも構ってあげて!』
『変な目で葵を見ないで!』
『あの子が香住に似てるから!』
『葵は香住じゃない、香住は死んだのよ!』
悲痛な母の叫び声が耳に残っている。
昔から夜更かしが好きで、小説を読んだり、パソコンや、ゲーム、手当たり次第やりこなしていた。
そんな時に必ず聞こえた、夫婦喧嘩。
だから、両親の離婚の理由も、なんとなく分かっていた。
「香住と一緒に築いたこの会社も葵に捧げてあげたいくらいなのよ、この先もあの子を守りたいと思ってるの」
「俺だって守りたいと思ってるよ」
そう言っておいて、俺は、はっとする。
ちょっと待って。
ひょっとして、今、家ではまた、海斗と葵が二人きりなんじゃないか?
「母さん、俺は早く家に帰りたいんだよ、こんな事してる場合じゃないんだよ」
「まぁ、こんな事ですって?」
「いいから帰るよ、送ってよ?」
奥の方に控えてる、秘書の女性に声をかける。
「なんなのよ、急に慌てて?」
「だから、葵の事だよ?守りたいって言うんなら、俺を今すぐ家に帰してよ?今、家で海斗と二人きりなんじゃないか?」
俺はイラつきながら、母さんを思わず睨みつける。
「……あんたも大変ねぇ?それなら今度から、葵を連れて来るぐらいの事はしなきゃね?」
「そうするよ、そのかわりお手伝いさんくらい雇ってよ?」
「……考えとくわ……先に帰ってなさい?」
タバコに火をつけて、また、スケッチブックを見ているし。
今日も帰りは遅いんだろう……。
「はい、送りますよ?」
秘書の女性が控え目に声をかけてくれる。
俺は頷く。
大きな社長室の机で、一人で座る美しい母さんが、やけに小さく見えた。