キョウダイ
第19章 悠ちゃんの生活
明の指が伸びて、あたしの首筋に触れた。
「だけど、出来れば、俺の所に……来て欲しい……、君を周防の身内として、受け入れる事も出来るんだ、ほんの少しの歯車が噛み合わなかっただけで、俺達は一緒にいられない……」
以前明が言っていた。
あたし達家族がバラバラになってしまった、あの事故の時。
明は両親と共に海外に手術の為に、何年か過ごしていたと。
だからあたし達の事故の知らせも遅かったし、あたしを引き取る事も出来なかった。
いとこ、なのに。
キョウダイになれたのに。
それじゃあ、キョウダイって何?
思い浮かぶのは、奏ちゃんの面影。
少し大きな黒い瞳が、目の前にいる、明の瞳と、カチリと重なった。
そのまま抱きしめられた。
ドクン、ドクン。
胸の鼓動が重なる。
ちゃんと動いている、心臓。
「君が誰のモノでも、俺は死ぬまで、君が好きなんだと思うよ」
じっと見つめられて、ゆっくりと唇が重なる。
優しいキスに戸惑う。
唇が離れて、また、見つめられて、唇が重なる。
どうして、こんな、キスを?
戸惑うあたしから体を離して、明が立ち上がる。
「じゃあね」
ふらりとした足取り、少しだけ、息が荒くて、学校の出口に向かった足取りに嫌な予感がした。
「どこに、行くの?」
意味の分からない、不安。
「……最近体調が悪いから、暫く休むと思うよ……葵ちゃんに会えて良かった」
「会えるよね?家で療養するって事だよね?お見舞に行くから……」
「……来なくていい……!」
強い口調にびくりとする。
儚げな背中を遠く感じて、身動き出来なくなった。
明の姿が見えなくなるまで、ただ見てる事しか、出来なかったんだ。