キョウダイ
第3章 血の繋がり
バイトも始めて、ますます忙しそうだったし、家にもあまり来ないようになっていた。
悠ちゃんも、血が繋がってないってこと?
キョウダイとの思い出が沢山ある公園が、急に色褪せて見えた。
でも、すべてが小学校からの思い出だ。
小学校から以前の記憶が、あたしにはない。
子供の頃の記憶なんてそんなモノだろう?
みんなはそう言ってたけど。
そんな事はない。
それと、関係あるの?
ジャングルジムの前で足を止めた。
見上げて見れば、そんなに大きくない。
3メートルあるくらい?
一番上まで登るのは簡単だった。
なんなく登る。
街灯の灯りが1つだけの、寂しい公園。
こんな時間だし、誰もいない。
当たり前だ。
空を見上げて見れば、うっすらと星空が見える。
灰色に見える雲が月を隠している。
その時だ。
「葵っ!危ないっ!」
静かな夜に似合わない、緊迫感のある声。
はっきり言って、あたしはその声にびっくりして、
「わあっ!」
少し体が揺れただけだったのに。
悠ちゃんだった。
あたしを見つけた瞬間、ジャングルジムに駆け上がって、あたしの体を支えた。
「こら、危ないから、登ったらダメだって言った筈だろう?」
薄茶の優しい瞳が咎めるように揺れる。
「もうあたしは大きくなったし、大丈夫だもん」
拗ねたように、顔を背ける。
ジャングルジムから落っこちたのは、小さな子供の頃だ。
「お前の背は160センチもないだろう?大きくないから、心配になるんだよ」
「大丈夫だもんっ」
言うなりあたしは、いっきにそこから下まで飛び下りた。
スタン。
着地成功だ。
少し体が重かったけど。
ズキン、お腹の奥が痛む。
悠ちゃんは溜め息をついて、同じように飛び下りた。
軽い身のこなしで着地して、少し長めの前髪をかきあげる。
「ご飯食べに行こうか?お姫様?」
イタズラっぽい笑いかただった。