キョウダイ
第21章 残りの人生
明…………。
明に、会いたい………。
体を起こして、ベッドから下りようとして、体が思うように動かずに、頭がくらりとした。
「まだ、体を休めたほうがいい、無理をするのは良くないよ」
「でも…………」
「葵ちゃんの身に何かあったら、僕が明に恨まれてしまうからね、これでも可愛い一人息子なんだから、あいつの頼みは聞いてやりたいんだよ」
「はい……」
明がお父さんに何を頼んだのか……どこまで話たのか、気にはなるけど、今のあたしには、恐くて聞けない。
素直にベッドに戻って横になった。
体が重くて、体が痛む。
「今はまだ、ゆっくり、お休み……」
子供の時から、優しくて、紳士的な明のお父さんに促されて、また、瞳を閉じる。
すぐに眠りに落ちていく。
あたしの体と、心は、疲れきっていたのかもしれない。
夢を見ていた。
子供の頃の夢。
自転車に乗れるようになって、嬉しくて、一人で少し遠くまで来ていた。
高級住宅地。
その中でも、一番大きな家を見付けて、自転車を止めた。
おとぎ話に出てくるようなお城みたい。
大きな門を覗くと、ドーベルマンに吠えられてしまって、びっくりして逃げて、裏庭の植木の隙間から、こっそりとその家の庭に入った。
思った通りの素敵な庭園。
噴水があって、綺麗な花が咲き、薔薇の花が沢山あった。
お姫様気分を味わって、くるくる回り、薔薇の花畑の隅っこに、誰かがうずくまっているのに気付いた。
色白の綺麗な子、あたしと年は変わらないように見えた。
うずくまって、一人で泣いている。
お花の妖精みたいに、透明感のある肌、綺麗な顔立ちは良く見たら、弟の奏ちゃんに少し似ている事に気付いた。
「どうして泣いてるの?お名前は?」
声をかけると、その子の体が驚いたように震えた。
「…………明」
涙声でぽつりと呟く。
「明君、どうして泣いてるの?」
もう一度聞くと、じっと見つめられて、じろじろ無遠慮に睨まれた。
「君の顔、何だか鏡で見る僕の顔に、似ている……」