キョウダイ
第21章 残りの人生
もともと、体を動かす事が好きだったけど、今では剣道も習い、毎日走ったりしている。
あの時、あの悠ちゃんのアパートで、何も出来なかった自分を海斗なりに、責めていたようだ。
あんな事をした、悠ちゃんにも、気付いてられなかった。
その事を悔やみ、なんでも対応できるように、精神的にも鍛えたいと言っていた。
「なあ、葵……、もうそろそろ、いいんじゃないか?」
ジャングルジムで遊ぶ、奏ちゃんを背中越しに見ながら、海斗と向かい合う。
「何がかな?」
何度か言われて、気付いているのに、敢えて言う。
「あいつの事はもう忘れて……嫌、忘れなくてもいい、お前があいつを思ったまま、あいつの子供ごと、俺と一緒になってくれないか?」
「ごめんね、あたしは、明がいなくても、結婚しようとは思わないよ」
ふう、溜め息をつき、前髪をくしゃっとかきあげている。
「バカだな、お前は、柊斗だって、母さんの後をついで、会社もますます大きくなった社長だと言うのに、そんないい男を二人も蹴っといて」
悠ちゃんは大学卒業後に、法律事務所を設立して、どこぞの名家のお嬢様と婚約したらしい。
皆それぞれ、前を向いて進んでいる。
あたしだって、まだまだ、看護師として、未熟だ。
この先もっと勉強して取りたい資格もあるし。
知りたい事も沢山ある。
「まあ、いい。
今度、母さんが食事に来いって言ってたから、なんか作って貰いたいモノもあるらしいぞ?」
「うん、分かった」
今では柊斗の会社で、お母さんは会長さん、時々小物作りを頼まれて、カチューシャとか、ネックレス、子供のドレスくらいのちょっとしたモノだけど。
やっぱり好きだから、楽しくて、それによる報酬もちゃんと貰っている。
趣味の範囲じゃなく、デザイナーにと言われても、あたしは看護師の道をえらんだ。
明の情報を得る為でもあったけど、今はそれだけじゃない。
きっと、帰って来る。
そうしたら、今度こそ…………。
「ねぇ、君はどこの、子供?
この辺の子供かな?」
あたしの背後から、聞き覚えのある、掠れたような、優しい声がした。