キョウダイ
第4章 大人の男の人
「ハロウィンいいねぇ、その時は可愛いゾンビにしてあげるから」
いやいや。
「悠ちゃん?この格好はちょっと……」
悠ちゃんは目を細めてあたしを見つめる。
「その服はね。葵のママがデザインした服だよ」
「え……?」
ママ?
「有名なデザイナーで、母さんと一緒に今の会社を設立したんだ」
「不幸な事故で10年前に亡くなっているけどね……」
美容師の人が言った。
「麻生 香住。デザイン画が沢山残ってて、泉さんがそれを引き継いでいる。実際良くやっているよ。他にもあるけど、これなんかどう?」
泉さんはお母さんの名前だ。
と言うことはつまり。
あたしの本当のお母さん。
「不幸な事故?」
白いワンピを手にとる。
黒いレースがところどころに施されたデザイン。
「業界では有名な話だよ。旦那さんがカメラマンで撮影で家族で山奥の方に行って、崖から転落して谷底にまっ逆さまだよ。結構ニュースになったみたいだったし、才能ある人ってのは、長生きできないのかね?」
崖から転落する車。
車の窓から投げ出される、あたし。
あたし、だけ?
窓から投げ出された。
手を繋いでいた人が、いた。
あれは。
誰?
ズキン。
頭が痛い。
「葵?大丈夫か?」
思わず頭を押さえていた。
悠ちゃんがあたしの肩を支えてくれた。
「大丈夫。これ、着てみたい」
白いワンピを手にとる。
「どうぞ。着てみて」
あたしは試着室に入った。
子供の時から服に恵まれていた。
クローゼットの中には沢山の服がある。
でも動きやすいから、ほとんどデニムのジーンズやTシャツで過ごしていた。
でも街に友達と行く時くらいは可愛くしてたけど。
着せ替えしたり、ドレスの絵は良く書いていた。
お母さんと一緒にそういう遊び方をしてたけど。
知らなかった。