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キョウダイ

第8章 意地悪な彼氏





どうして僕は、死んでしまったの?




これは、夢だ。




葵ちゃんどうして?




分かっているのに。




「いやっ、奏ちゃんっ……!ごめん、なさい……っ……!」




近付いてくる。




大きな瞳があたしを、追い詰める。



何度も何度も。



手が離れた瞬間の奏ちゃんの表情。



凍りついた眼差しがあたしを責める。




「ごめんなさい……っ……!」







「葵ちゃん?しっかりしてっ」




ぐいっと引っ張られる。



気づけば抱きしめられていた。



「奏ちゃん……?」



少し大きめな瞳。



端正な顔立ち。



……似ている。



奏ちゃんに。



パパに。



「違うっ、似ているだけだっ」



珍しく明が声を荒げて否定する。



「……明?」



首を傾げて黒い瞳を見つめる。



はっとしたような顔をして、笑う。



「明だよ?君の彼氏のね。寝ぼけないでよ?」



そうだった。



どうして、そう思ったんだろう。






「もうっ、もっと早く起こしてくれたら良かったのにっ」




あたしはぶうぶう言いながら家に帰る。



すぐ近くだけどね。



「具合悪そうだったからね?そんな事言っても一時間くらいだよ?」



明日もテストだから。



昼前には学校から帰れた訳で。



少し寝て、昼過ぎくらいだ。



だけど家に帰ったら昼御飯をつくらなきゃいけないからね。



ああ、空が青い。



いい天気なのに勉強しなきゃいけない。



ご飯つくらなきゃだし、ついでに掃除もして、いい天気だから、布団も干したい。


少しの時間でも、する事は沢山ある。



明は家で昼御飯を作って欲しいって言ってたけど。



却下した。



「前から思ってたけど、葵ちゃんって所帯じみてるよね?」


ニヤリと笑う明に、空手部のパンチを繰り出す。


シュッという空気の音。


家の玄関前に来ていた。



明との身長差のせいか、リーチがあるから、あっさりと腕を掴まれる。




ぐいっと引っ張られてそのまま、抱きしめられた。




「ちょっと、明っ」


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