キョウダイ
第10章 彼氏になれない
そうだ。
意地悪だった。
子供の頃ジャングルジムからわざと突き落としたのは……。
明、だった。
明があたしの頬に手をやり、じっと目を合わせる。
そして、吐き出すように言った。
「君が……何もかも忘れてるからだよ。忘れるなんて許さない」
雨音が激しくなり、最後のほうは聞き取れなかった。
だけど。
記憶。
事故に会う前の?
そんなの分からない。
だってあたしの本当の家族はいないから。
誰も教えてくれない。
どうして明がそんな事いうの?
「ちょっと二人とも中に入って?」
玄関のドアが開き、腕を引っ張られる。
柊斗だ。
「明も入って?顔色が悪いから」
もう片方の手で明の腕を引っ張る。
ふらりとよろめく明の体。
胸を押さえる。
そうだった。
昔から体が弱くてしょっちゅう学校を休んでた。
小学校くらいの時に海外で心臓の手術をしたって言っていた。
小学校くらいの時……。
あれっ?
何か引っかかる。
何か大事な事を忘れているような?
小学校くらいの時……。
それは。
あたしが事故に会う前?
記憶をなくす前?
分からない。
だけど、もし、そうなら……。
いったい何を忘れてるの?