キョウダイ
第10章 彼氏になれない
「おはよう、葵ちゃん」
玄関前は屋根があるから、傘を畳みながら明が微笑む。
「おはよう、明」
後ろの手で玄関のドアを閉めて、明と向かい合った。
「あのね、色々考えたんだけど、あたしやっぱり明とは付き合えない」
「どうして?」
軽く首を傾げてさらりと揺れた髪をかきあげている。
「あたし……柊ちゃんが好きなの、だから……」
「ふうん、そうなんだ?いいんじゃないの?」
「えっ、明?」
話聞いてる?
「昔から仲良いからね、なんとなくそんな気もしたけど」
だからなに?
そう言わんばかりの表情だ。
「言っておくけど葵ちゃん、柊斗は君の彼氏にはなれない。表向き戸籍の上ではキョウダイだし、みんなそう思ってる」
「そんな事は分かってるよ」
「じゃあ、言い方を変えようか?君はキョウダイだから、みんなに守られてるんだよ。皆が君に一目置いてるし、誰も君を傷つけない。だけどキョウダイじゃないのなら、それが分かった瞬間から皆の見る目がガラリと変わってしまう」
「あたしはそんな、いままでどおりで、ただ明とは付き合えないって言ってるだけなんだけどっ」
かあっとなって明を睨みつける。
腹が立った。
どうしてそこまで言われなきゃいけないのっ。
明の黒い瞳がきらりと光る。
「あれ、俺言ったよね?キョウダイじゃないって皆にばらすよって?」
はあっ!?
呆然とする。
「そうなると、君は間違いなく皆に嫌がらせされる。特に柊斗はいつの間にかファンクラブまでできてて、ちゃんとした組織になっているし、結構な騒ぎになるだろうし、海斗は海斗でモテるからね。しかも大真面目に惚れられてるから、何をされるか分かったもんじゃない」
「うるさいっ」
はぁはぁ言いながら明を睨みつける。
「相変わらず気が短いね?彼氏のふりって言ったけど君は拒否できないって事。強制なのかな?」
激しく雨が降りだした。
「どうして、そこまで?」
意地悪するの?