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セツナ桜

第1章 セツナ桜

 錆びた階段を駆け降りると、だんだんとヒールの音が響く。雪が降り始め、次から次へと銀の絨毯に落ちる。私の実家、小樽からは少し離れていて、とても歩いて帰れる距離ではない。私は、少し大通りに出て、タクシーを呼ぶ。母と父には明日帰ると言っていたのに、何と言い訳をしようか。そんなことを考えて気を紛らわそうとするが、やむ気配はない。

 降り積もる雪を見ていると、高校時代に俊哉と雪祭りに行ったことや、校庭で雪だるまを作ったことを思い出す。雪は冷たくて、手はかじかんだのに思い出は温かくて、堪えていたものが頬を伝う。

 思い出は温かいのに、どうして私はこんなにも苦しいのだろうか。痛いのだろうか。分かってはいるのだが、認めたくなくて、だけど認めざる得ない事実はあって……。

 周りの人が私を変な目で見て通りすぎていくのに、止めどなく溢れるものは抑えられない。惨めで、どうしようもなく滑稽で。

 街外れで私はその場に崩れ落ちてしまう。

 ふと空を見上げると、降りそそぐ雪が緋色の桜の花びらのようだった。



End
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