
Sinful thread
第2章 喪心
「おかえり。思ったより早かったな」
葵は特に動揺した様子もない。
あたしの視線の先に気づいたのか、葵は隣の女の人に視線を移した。
「急にびっくりしたよな。ほんとはもっとちゃんと紹介したかったんだけど。この子、芽依。俺の彼女」
……「彼女」。
その言葉に、一気に目の前が真っ暗になった。
「……あ、葵、彼女いたんだ……」
それだけを声に出すのが精一杯だった。
……胸が、苦しい。
よろしくねとかなんとか言って、にこにことこっちを見る「彼女」の笑顔を振り切って、あたしは逃げるようにリビングを出た。
……やだ、嫌だよ。
嘘だって言って……お願い。
自分の部屋に入り、ベッドに倒れ込んだ瞬間、溢れるように涙が流れ出す。
……大きな瞳に、小さな顔。艶のある黒髪。
守ってあげたくなるような華奢な身体。
どれを取っても……あたしなんかじゃ、敵わない。
葵の整然とした態度が、あたしのことをなんとも思ってない証拠だと、思い知らされる。
どんなに泣いたって、あの事実が嘘になるわけじゃないのに。
それでも、止めどなく涙は溢れる。
……止める術なんて、あるはずもなかった。
