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Sinful thread

第3章 愛欲



「なんで泣くんだよ」


葵が、親指であたしの瞳から落ちる涙を拭う。


申し訳ない気持ちで一杯なのに、不覚にも葵との距離の近さにドキドキしてしまう。


「……葵、心配かけて、ほんとにごめ……」


もう一度、謝罪の言葉を口にしかけたその瞬間。

あたしは、ふわっと葵の匂いと温もりに包まれた。


……なにが起きているのか理解できない。


葵の顔が、すぐ横にある。
柔らかい葵の髪が頰に触れる。


……葵に、抱き締められてる。


あたしの頭は、やっとそれを理解する。


「謝らなくていいよ。無事でよかった」


その言葉に、もう怒りは感じない。
宥めるような、優しい口調。


葵をもっと近くに感じたくて、あたしも葵の背中に両腕を回した。


「……ねぇ」


抱き締め合ったまま、葵の耳元であたしは口を開く。


「……葵、聞いて欲しいことがあるの」


近くにいればいるほど、抑えきれなくなる。
貪欲になる。


どうせ叶わないのはわかってる。
……だから、お願い。

せめて、あたしの想いを伝えさせて───。


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