
Sinful thread
第3章 愛欲
───コンコンッ
バクバクと高鳴る心臓を、深呼吸をして抑え、あたしは葵の部屋のドアをノックする。
その手も心なしか、震えてる。
……ドアの向こうからは、返事はない。
「……葵、入るね」
ゆっくりとドアを押すと、ふわっと葵の匂いが鼻を掠めた。
……部屋は真っ暗で、カーテンの開け放された窓から入る月明りのお陰で、かろうじて家具の位置がわかるくらいだ。
部屋の右端に置かれたベッド。
膨らんだその中心は、葵が中にいることを示している。
真っ暗な中をその中心を目掛けてそろそろと進んでいく。
ベッドの端に脚を掛けると、その重さにマットレスが少し沈んだ。
「……ねぇ、寝てるの?」
葵の柔らかい髪に触れる。
……起きて。お願い。
祈るような気持ちで問いかけると、突然手首を掴まれた。
「……寝てるわけねぇだろ」
手首を掴んだまま、あたしに背中を向けていた葵が、こっちを振り向いた。
