テキストサイズ

Sinful thread

第1章 居候

 

「何回も会ってるんだから、そろそろ俺に慣れろよ。一緒に暮らすんだぞ、今日から」


立ち上がった葵が、あたしの近くで目をしっかりと見つめてくる。


ダメ……っ顔が一気に熱くなる。
絶対あたし、顔赤い……。


「……とりあえず、よろしくな、希美」


ちょっと寂しそうな顔で、葵があたしの前に手を差し出した。
 

……あ、握手?
葵の手なんて、顔合わせの時にしか、握ったことない。
ただそれは、今ほど意識してはいなかった頃で。

……それから葵に触れたことなんてない。

それでも、反射的に、右手を差し出していた。
触れたいと思った。

葵は口元を緩めて、あたしの手を想像していたよりも強く、握った。


「……こ、こちらこそ」

「もっとリラックスしろよ。ここは今日からお前の家でもあるんだから」


そう言って笑みを浮かべる葵を見て、一気に体温が上がる。


「希美の部屋、案内するよ」


葵のその言葉で、もう片方の手であたしの頭をくしゃっと撫でて、握った手が離れた。


「うん……」

葵と一緒に立ち上がる。

優しさなのかなんなのか、顔が赤いことも、手から伝わったであろうあたしの体温が高いことも、葵は一言も触れなかった。




ストーリーメニュー

TOPTOPへ