しなやかな美獣たち
第3章 ♥:Sweet Beast【恋愛・NL】
金曜日の夜──
綺麗に磨かれた硝子の扉が左右に開くと、私は街の喧騒の中へ飛び出した。
地下鉄の駅へと足早に歩を進めながら、鞄の中のスマートフォンを探す。今の時刻を確認する為だ。
今日は少し早く終わったから、一本早い電車に乗れるかも知れない。
しかし、内ポケットを探しても、底を漁っても、お目当ての物は見つからなかった。
立ち止まって、更に鞄の中をゴソゴソと探すが、やはり見当たらない。
「やばっ! 教室に忘れて来た!?」
私は一人ごちながら、歩いて来た道を引き返す。結局、いつもの時間になるのかと思いながら。
しかし、土日にアレがないと困る。携帯小説の更新が出来ない。
潜り抜けたばかりの硝子の扉を再び通り、エレベーターホールへと向かう。
もう、閉まっているだろうか。そんな事を思いながら、教室のある5階行のボタンを押す。
扉が閉まり、静かにエレベーターが上昇すると、ノンストップで5階に到着。
私は急いで降りると、講義を受けた教室へと足を進めた。
扉に填め込まれた、小さなすり硝子の小窓から零れる光が、教室の中にまだ誰かがいる事を窺わせる。
片引き戸を開けて中に飛び込むと、一目散に先程まで座っていた自分の席へと向かう。
「あれ? ない……」
机の上にも、天板の下の棚にも、椅子の周りにもスマートフォンがない。
事務室に誰かが届けてくれたのだろうか?
私はそう思うと、踵を返し教室を出ようとした。その時だった。