しなやかな美獣たち
第5章 ♥:最後のキスは死神と【ファンタジー・NL】
俺は霧島朱音のベッドの枕元に立つと、顔を覗き込んだ。長い間の肉体労働と病気で、すっかり痩せてしまった頬を撫で、唇に自分の唇を重ね合わせると、彼女の中に心を戻すと、彼女がうっすらと目を開けた。
「朱音……。迎えに来たよ。今から、お前を次の世界に送るから……」
その前に、お前の魂に俺の痕を刻むから。お前が何処へ行こうとも、いつ生まれ変わろうとも、この痕が俺をお前に導くから。だから、待って居てくれ。
俺は彼女の胸元に唇を寄せると、痩せてあばらの浮いた胸元に、きつく吸い付いた。青白い肌に咲く、赤い花。俺とお前を繋ぐ、契約の証。
俺はその痕を愛し気に眺め、指先でなぞる。彼女はそれを目を細めて、微笑ながら見ていた。
「愛している」
俺がそう言って朱音に口付けると、彼女はうっとりと目を閉じ、俺の口付を受け入れた。
心臓の動きを監視するモニターの波が、次第になだらかになって。"ピー"っと言う音が鳴ると、その波は平坦になる。医師や看護師が駆けつけ、朱音の死を看取る。俺はそれを俯瞰しながら、ゆっくりとその場を離れた。
~最後のキスは死神と~