しなやかな美獣たち
第4章 ♥:オオカミ少年とヒツジ女子【年下♂×年上♀】
「楠(クスノキ)! 楠は居るか!?」
この館の主(あるじ)である東江 桐吾(アガリエ トウゴ)は、玄関先で出迎えたメイドに鞄を預けると、大声で奥に呼び掛けた。
名前を呼ばれた私は、ポケットの懐中時計を取り出し、時間を確認すると、もうそんな時間なのかと溜息を零しながら、玄関へと向かった。
「遅いぞ! 僕が帰ってくる前には玄関で待って居るのが常識だろっ!?」
そう言って頬を膨らませる我が主は、この春高校生になったばかりの十五歳。まだ、あどけなさの残る少年だ。
「大体、他の連中の執事達は学校に迎えに来てるってぇのに、どうしてお前は来ないんだ!?」
「申し訳ございません。私の様な"女の執事"などが迎えに出ましたら、坊ちゃまが奇異な目で見られるのではないかと思いまして……」
そう。私は「女」である。執事は男性が務めると思われているかも知れないが、女性の執事だって昔からいるのだ。数はそれ程多くはないのだが。
有名どころで言えば、某スイス近郊の少女がお世話になるゼーゼマン家の、モノクルを掛けたキツイ女性は、あの家の女執事だ。
あの時代は女性が執事服を着る事はなかったが、現在では男性と同じ様なパンツスタイルのスーツを着る事が多い。燕尾服を着用する執事は、王族に仕えている者くらいだ。