しなやかな美獣たち
第4章 ♥:オオカミ少年とヒツジ女子【年下♂×年上♀】
「そんな事、気にする必要はない。お前は父さんが認めた、東江家の次期頭首の執事だ。堂々としていればいい」
坊ちゃまはそう言うとスタスタと歩き出す。私はその後について行く。
坊ちゃまは玄関ホールから階段を上がり、お部屋へと続く廊下へ辿り着くと、服を廊下に脱ぎ捨てながら、部屋へと向かうからだ。
そして部屋に入るなり、浴室に入りシャワーを浴びる。これは幼少期の頃から変わらない日課のようなものだと、前の執事・鷹柳(タカヤナギ)さんは言っていた。その鷹柳さんは、現在、家令として旦那様の下で働いている。
私がこの館にお世話になり始めたのは三年程前。執事学校を卒業したばかりの新米執事だった。そして坊ちゃまは最愛のお母様をご病気で亡くされたばかり。
最初の頃は、私の言うことには耳を傾けてくれず、私に言う言葉は全てが嘘だった。主に言うのもなんだが、反抗的で生意気な少年。それが坊ちゃまに対する印象だった。
しかし、どんなに捻くれた態度を取ろうとも、それがお母様を亡くされた坊ちゃまの寂しさからくる物であるのを分かっていた。
大人の気を引きたくて嘘を吐く。ましてやお母様を亡くされたばかりで、旦那様は仕事で忙しく、坊ちゃまに構ってくれないとくれば、尚更だろうと。