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旅は続くよ

第19章 ごめんね

Mside



A「潤!なんで黙ってたんだよっ」

ゼミで忙しい間を縫って夕飯の支度だけしようと

スーパーの袋を提げて学校から帰ってきた途端、

まー兄が怖い顔して待っていた


M「何のこと?」

キッチンに買って来た食材を置きながら

しらばっくれてみたものの

A「…ドイツの話だよっ!」

ああ、…やっぱりそれか

胸の奥がキリッと痛んだ


何でバレたんだろう?

大学の事なんか、まー兄には分かりっこないって高をくくってたのに…

うちのゼミの教授が学会と共同研究で渡独する事になっている

そのお供をする学生に選ばれて

光栄な事だけど辞退したんだ


M「いいじゃない。行きたくないから断ったんだよ」

A「良くないよ!なんで俺にちゃんと言ってくんないの!?
…潤のお母さんから連絡があって知るなんて…」

M「えっ!?」

あのババア、どこから調べたんだ?


M「あんなの母親じゃないよ。
まー兄だって知ってるでしょ?」

A「…あ、ごめん…」

まー兄は今日休みの日で

間の悪い事にあのババアからの電話を取ってしまったらしい


A「あの人に言われたんだ。
潤がドイツ行けないのはウチのせいだって。
費用は用意するから、潤をドイツに行かせてやれって…」

M「あのババア…、余計な事を…」


傍から聞けば麗しい母性愛だが、違う本音が透けて見えてんだよ

第一、今になって俺を引き取りたい理由からオカシイんだ

跡継ぎのいない金持ちの親戚のところに養子に出したいなんて

普通の人間の神経じゃないよ

あの女に取って見れば、俺なんて猫の子と一緒で

ドイツ行きは箔をつけるに持って来いのネタとしか思ってないんだ


A「潤、金の心配してんなら俺が何とか」

M「違うよ、金なんかじゃない。
必要ないから行かないんだ。
大学出たら薬剤師になって就職するって、前から言ってるだろ?
それにはドイツ行きなんか無駄なんだよ。
もっと研究に専念してるヤツが行くべきだから辞退したんだ」

A「でも…、チャンスなんじゃないの?」

M「だから、そんなチャンスいらないんだって!」

A「…勿体ないよ。そんな頭いいのにさ…」


俺の事を思って言ってくれてるのは、頭では理解してる

でも、今のまー兄に言われると

別の意味を持っているように思えて

ついイライラしてしまう

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