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旅は続くよ

第29章 聞き逃した弟の声

Oside


雅紀が帰ってきた翌日、

カウンターで店番してたら翔ちゃんが

頼んでおいた帳簿の計算を終えて持ってきてくれた


S「はいよ。これでいい?」

O「お、サンキュ」

学校帰りに寄ってくれる学生達も帰って

どうせ暇ついでに話し相手になって貰おうと

O「ちょっと座ってけよ」

S「えっ、俺やりたい事あんだけど」

O「いーから。な?」

腕を掴んで無理やり座らせた


O「ニノ、新しい仕事決まったんだって?」

ホットで明るい話題だと思って切り出したのに

意外に翔ちゃんは苦虫潰したような顔を見せた


S「…うん、そう。耳早いね」

O「ニノが話してくれた。
翔ちゃんのおかげだって喜んでたよ」

S「そう」

O「良かったね」

普通はそう思うだろ?

良かった、って

なのにちょっと沈黙になって

俺の素直な喜びは、すぐに賛同を得られなかった


S「まあ…、良かったんだけどさ…」

O「ん?」

S「…いや」

なんで『しまった』って顔するんだ?

何が『けど』なのか知りたくて

O「なんだ。話せよ」

と詰め寄った


S「…別に。…ただ、俺が欲張りだって…そんだけ」

O「どうして」

また黙ってしまったから、すぐ傍にあった翔ちゃんの手の甲をキュッと軽く抓った

S「いって!」

O「話せ」

S「も~、…大した話じゃないって」

O「いーから」

S「……ニノがどんなに『俺のおかげ』って言ってくれても、そうじゃないって話だよ。
俺はちょっと背中押しただけ。
結局はニノの運と才能だろ?」

O「だとしてもさ、上手くいったんだからそれで十分じゃない」

S「…うん」


返事したくせに少し口が尖ってる

母ちゃんに怒られてオヤツを貰えなかった子供の頃を思い出して

なんか、笑ってしまった


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