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旅は続くよ

第35章 電話

Sside



まさか自分がニノに「元気ない」と心配されてるとは思ってもみなかった

上手く隠せてると思ってたんだ

努めて平常心でいようと

無理やりにでも笑ってるつもりだったから

不自然に思われてるなんて、想像すらしてなかった

それだけ一杯いっぱいだった、って事なんだろうけど…


心に煙みたいな霧が掛かっていて、それを誰にも気づかれたくなかったんだ

特に智くんには



ニノと雅紀の事で心が沈み掛けてた或る日、

見知らぬ女性から母宛てに掛かってきた電話

幸か不幸か家には俺1人で、何の疑問も無く、その受話器を取った

母は亡くなったのだと告げると、息を飲む声が受話器の向こうから聞こえてきた

誰だろう?

母さんが残した連絡先には全部訃報を知らせたつもりだったけど…

「ご連絡せず申し訳ありませんでした。あの…大変失礼ですが、母とはどういう…」

「…いえ、ご存命中にお会いした事はないんですけど…」

「はあ…」

じゃあ何の用だろう?

その時、いきなり名前を問われた

「…じゃあ、貴方が翔君?」

「……?はい。そうですけど」

「私、貴方の姉です」


何を言ってるんだろうと思った

落ち着いた声色は、随分俺と年が離れているようにも聞こえる

父親が同じである事を説明されても、上手く理解出来なかった

俺の姉だって?

イタズラ電話か?

驚く事すら何だか出来ない

怒りも、悲しみも、喜びも、何1つ湧いては来なかった


「…聞いてる?」

「聞いてます」

「父がね、病に倒れて…もう時間がないの」

余命いくばくも無いと聞かされても、やっぱり実感なんて湧いてこない

はあ、そうですか。それは大変ですね

そんな間の抜けた言葉さえ喉まで出掛かっていた

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