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旅は続くよ

第35章 電話

「あなたに会いたがってるんだけど、来てもらえないかしら」

それを聞いて初めて湧いてきた感情は

…勝手に死ねばいい…

酷く冷めたものだった


「ねえ…、聞いてる?」

「…聞いてます」

聞きたくないけど聞いてるよ

聞いてるけど、だから何だってんだ

認知もしないで今更会いたいなんて、どうかしてる

息子なら会いに来て当然だとでも思ってるのか?

こっちは今まで実の父が何処の誰かも、生きているかどうかも知らなかったんだよ

生まれてこの方、会いたいなんて思ったこともない

大野の父さん以外の人を『父』と呼ぶ気は無いんだ

そんな気持ちには100年掛かってもきっとなれない


「もしもし?翔君?」

「…はい」

「手術も一応受けたんだけど、もう手の施しようが無いらしいの。それでね…」

もうすぐ死ぬと言われても、何の感慨もない

勝手にしてくれよ

どうぞご自由に

どうせ今まで俺とは関係ない所で自由に生きてきたんだろ?

これからも自由に生きるなり死ぬなりしてくれよ


電話から流れてくる話は右耳から左耳に簡単に流れてく

ザラザラと不快な音を立てて、頭を痛くしながら通り過ぎていくだけで

何処にも引っ掛かりはしなかった


病院名を言われても、何の返事もしなかった

こちらの反応を待っているのか、やがて相手も無言になった

だからと言って、何も言う事は俺にはない


沈黙が流れていく途中で、無言のまま受話器を置いた



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