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旅は続くよ

第40章 もう少しだけ

Nside



その日は、ドンヨリと塞いだ気持ちで家に帰った


M「おかえり~」

台所では潤くんが夕飯の支度をしていて、

フワリと漂う味噌汁の匂いと

トントントン…と優しいリズムを刻む包丁の音

そんな柔らかな日常に少しだけホッとしたけど…

心は重たい石でも抱えているように沈んだままだった


N「手伝おっか」

M「え、珍しい。言う前に言ってくれるなんて」

N「どうせ言われるだろうと思って。あれ、手伝いいらなかった?なんならテレビ見てますけど?」

M「いやいや、いりますよ。流しにあるモン洗ってくれる?」

N「はいよ」

体を動かしてれば、少しは忘れられるかもしれない

洗い物を濯ぎながら、心の中の重たい石も水に流してしまいたかった


N「最近帰り早いね。大学の方、忙しいの終わったの?」

M「うん、俺ももう今年卒業だからね。ゼミ研は後輩とかに任せて、今は卒論とか取り掛からなきゃ」

N「もうそんな時期?早くない?」

M「早めに終わらせたいんだ。国家試験もあるしさ」

N「学生さんは大変だねぇ。就活もあるんでしょ?」

M「それはもうほぼ決まり。教授の紹介もあったからね
あとはちゃんと卒業して、薬剤師になるだけ」

N「なるだけ、って…。難しい試験でしょうに」

M「大丈夫だよ。ちゃんと勉強してるし、まー兄も応援してくれてるしね」


そう言って笑ってみせる潤くんは、楽しそうで、幸せそうで…

それは、散々悩んで、苦しんで、潤くんが勝ち取ったものなんだよね

羨ましいよ

俺と全然違うんだもん

…ああ、嫌だな

ちゃんと頑張った潤くんと俺なんかを比べたって、どうしようもない

今さら…考えたって、どうしようもないのに


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