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旅は続くよ

第42章 最後の思い出に

自信なんかなくったって、やらなきゃいけない事だ

これが終わったら出て行かなきゃいけないんだ

分かってるけど…、それが嫌で

嫌で嫌でどうしようもなくって

この期に及んで中止にしてしまいたい気持ちを抑えて、ギュッとクッションを抱きしめた


S「…緊張してんのか?」

心配そうに覗き込む翔ちゃんの優しさが心にしみて

N「へへ…」

笑って誤魔化した


出ていく事は怖くて言えない

きっと泣いちゃうから

さと兄にだけは言って去ろう

あの人だって、ちょっとくらいは引き留めてくれるでしょ?

それで満足しておこう

それ以上は…想像したくもないから、考えないでおこうと決めたんだ


S「…ごめんな。俺の為に嫌な思いさせて」

N「ううん、そんな事ない。俺が言い出した事なんだからいいんだよ」

S「嫌なこと言われたら、すぐ加勢すっから」

N「そこは大丈夫でしょ。スネに傷持つ方なのはアッチなんだから」

S「そっか?…まあ、そうだな」


優しい翔ちゃん

大好き

黙って出て行ったら、少しは寂しいと思ってくれる?

俺がいなくなっても、少しは思い出してくれるかな

…ダメだ

考えただけでも泣きそうになっちゃう…


S「…寝れるか?今夜」

N「…え?」

S「ほら、誰かさんはすぐ不眠症になっちゃうから」

N「んふふっ。あったね、そんな事」


嫌な夢に苛まれた眠れない日々

あの頃は何も考えずに翔ちゃんの布団に潜り込めた

おかげで今は、母さんが死ぬ夢もサッパリ見ない

…ううん、違うな

変に緊張して眠れなかったんだっけ

今思えば、何となく翔ちゃんはあの頃から特別だったんだな

…なんてね

なんで今になって気づくんだろう…

あの頃にちゃんと自分の気持ちに気づいてれば、何か違ってたかな


こんな事、今さら思ったって遅いんだよ

もう…、何もかもが手遅れ

だったら、せめて…

少しでも、今できる事と言ったら…


N「眠れそうにないって言ったら…、一緒に寝てくれる?」

もう1度だけ

一緒に眠る思い出が欲しい

これが、きっと最後

それでもいいよ

勇気を出した証が欲しい…


翔ちゃんはちょっとだけ驚いた後

S「…いいよ」

微笑んでくれた

あの頃と同じ、包み込んでくれるような笑顔だった


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