テキストサイズ

旅は続くよ

第44章 ニノの文句

Nside



待ち合わせの喫茶店には、約束の15分前に着いた

父親が指定したこの店は、イマドキのカフェとは全然違う昭和な感じで

土曜日の昼過ぎなのに、店内はお世辞にも流行ってると言えないくらい客もまばらで

容易に俺が座った席の真後ろに、翔ちゃんが座る事が出来た


背中合わせで、知らないふり…

ありのままの会話を聞いて貰いたいからだ

それでも

『男一人だしな、新聞でも読んでるフリしてるよ』

その言葉通り、ガサッと乾いた紙の音が後ろから聞こえてきて

その気配が、少なからず緊張してる俺の背中を守ってくれてるみたいな気がした


喫茶店に誰が入ってくる度、カランカランとドアのベルが鳴る

その音にハッとするけど、振り返りたくない

待ち望んでる相手じゃないから…

この後に及んで会いたくない気持ちもある

会って何を言ったらいいのかも…、まだ決め兼ねてるんだ


「……和也、か…?」

不意に傍で聞こえた声に顔を上げると、記憶の中よりも随分老けた男が立っていて

それが10年近く会ってなかっ事を物語っていた


「…久しぶりだな」

「…ですね」

「元気か?」

「見ての通りですよ」

真正面に座ってるのに、お互いまともに視線を合わせられない

言葉が上手く出てこないよ

間が持たなくて、手元の紙袋をテーブルの上に置いた


「連絡したヤツ…」

「え?」

「電話で言った渡したい物…、コレです」

「ああ…」

紙袋の中身を確認して、親父が顔を少しだけ綻ばせた

「コレか…。懐かしいな」

袋の中身は、父親の学生時代の卒業アルバム

家を処分する時に書斎で見つけたものだ


「ずっと保管してくれてたのか」

「一般に売ってる物じゃないですから。後で買って返せと言われても困るでしょ?

 流石にもう邪魔だったんで」

「まあ、…うん。ありがとう」

父親がテーブルの上から紙袋を手元に引き寄せて

いよいよ話す事が無くなってしまった


ストーリーメニュー

TOPTOPへ