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旅は続くよ

第15章 それでもキミの為に

Sside



S「村尾さんって知ってる?
昔『ZERO』って雑誌の編集長してた人なんだけど」

N「え、村尾さん?
知ってるも何も…有名人じゃないの」

良かった

ちゃんとニノも知ってる人だった


『ZERO』は大衆向けの雑誌だはなかったものの

政治経済からファッションまで幅広く、緻密な記事で有名だったらしい

村尾さんは、創刊以来のカリスマ編集長で

村尾さんが病気で倒れたために廃刊になってしまったという

マニアには垂涎モノの幻の雑誌らしいんだ

広報課の同期には

『村尾さんを知らないライターなんてモグリ』と言われたものの

ド素人の俺には初めて聞く名前だったから

ニノが知ってるか…不安だったんだ


S「会ってみない?」

N「会ってみないって…。
そんな気軽に会えるような人じゃないよ」

S「今ね、ウチの市役所の広報課にいるんだよ」

N「え!嘘でしょ!?ホントに?」

余りの食いつきっぷりに俺は喜びを隠せなかったが

当のニノは一瞬嬉しそうに顔を輝かせた後、

またすぐに不安そうな表情に戻ってしまった


N「でも、なんで…?何かあんの?」

S「ウチの市報とか、ニノにどうかなと思って。
…俺にはそんなツテしかないからね」

N「市報って…。俺、市役所の職員じゃないんだからさ。
何?外部OKなの?」

S「村尾さんはウチの市長の旧友らしくて、非常勤で特別顧問をしていただいてるんだ。
体もだいぶ回復されたとは言え、完全に現場復帰はまだ難しいって話でさ。
村尾さんの後押しがあれば広報で働けるかも、と思ったんだけど。
…どうかな」

N「どうかな…って。…無理でしょ」

S「やってみなくちゃわかんないよ」


食い下がる俺に、ますますニノは尻込みしてるみたいだった

しつこいのは自分でもわかってる

このままじゃ嫌われるだけだってのも、勿論わかってる

それでも俺はニノの為に何かしたくて

きっとそれが自己満足だったとしても

しないで後悔するよりマシだと思ってるんだ

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