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プリンス×プリンセス

第45章 痕跡

そうした仕草は母としてのものにしか見えなかった。

目に見えないものでも、感じるものはあるんだろう。

自らの胎内に宿った命を、母親として愛し始めていた。

…母親、か。

遠い記憶。

甘やかで、あたたかな光に満ちていた、あの頃。

『ジューク、頑張ったわね。ありがとう』

そう言って頭を撫でてくれた手は…

自分の考えに、苦笑を浮かべる。

そんなもの、今はもう無い。

あの方も、生まれてきた子供に、同じように手を伸ばすのだろうか。

それならば、幸せな時を過ごしてほしい。

あんな泣き顔は見たくないから…

いつも微笑んでいるティアナ様の涙を見たとき

『私なら…こんな風に泣かせたりしないのに… 』

衝動に突き動かされた。

あの言葉に嘘はない。

その後の行為も、後悔など何もない。

ただ…あの時の声が。

『ジューク…ん、ぁっ…』

甘い声で名前を呼ばれて。

それがいつまでも耳に残っている。

……ただ、それだけだ。

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