雨が夕日に変わるとき
第1章 雨が夕日に変わるとき
「んじゃ、行くぞ」
私の準備が済んだのを確認すると将ちゃんは清算を済ます。画面には七千円と表示されている。毎回こんな金額を払っているのだからなんの仕事をしているのかと思う。そんなこと私には聞くことも出来ないのだけれど。
目と鼻の先の駅に着くと前を歩いていた将ちゃんはくるりと私の方を振り向く。
「綾芽ちゃん、またね」
「将ちゃん、またね」
手を振ると将ちゃんも振り返してくれた。その後、すぐに改札口の中に消えていく。私は駅から歩いて、自分の家に帰る。
家に帰る途中に浮かぶのは将ちゃんの笑顔ではなく……。胸が苦しい。彼は家に帰ると家族が待っている。温かいご飯がある。もちろん私にだってある。
けれども、彼には本当に愛する奥さんがいる。その人と結婚できた。羨ましい。私には好きだという気持ちすら伝えられない。空を見上げると消えかけの三日月がそこにあった。