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お嬢様と二人の執事

第5章 漂

なぜ…素直に甘えられないのか…。

身体を嬲られながら、一也さんのことを考えた。

一也さんをこんな風にしてしまっているのは、自分かもしれない。

だが、それ以前に彼には何かあるような気がしてならない。

そう、例えば…背中の傷跡。

そっと背中に手を這わせる。

びくりと彼の動きが止まる。

傷跡に指をはわせると、顔を歪ませた。

そのまま私の胸に顔を埋める。

「やめろ…」

「一也さん…?」

「そこには触るな…」

泣きそうな声だった。

初めて、このひとに触れた気がした。

「聞いてもいい…?」

「……何を」

「この傷は…どうしたのですか?」

こじ開けてはいけないのかもしれない。

でも聞かずには居られなかった。

その孤独が、この傷跡にあるような気がしてならなかった。

聞いてどうしようとも、何も考えていなかった。

それが、どういうことになるのか…


私には考えも及んでいなかった。







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