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お嬢様と二人の執事

第5章 漂

神山side



沙都子様の部屋に足を踏み入れた。

大学からお帰りになったら、レッスンの約束があったからだ。

しかし後から優子が俺を追ってきて、少し帰りが遅くなると、高宮から連絡があったと告げた。

なぜだか胸騒ぎがした。

沙都子様の部屋のソファに腰掛けると、クッションを手にとった。

沙都子様の涙を吸ったクッション。

そっと顔を近づけると、顔を埋めた。

ほのかに、愛する人の香りがした。



なぜ高宮を沙都子様に近づけてしまったのだろう。

今更後悔しても遅い。

だが、あの野心溢れる男にここを任せる以外手はなかった。

俺がこの館だけを見るわけにはいかない。

彼以上に有能な者などいなかった。

早く東堂の人間になって欲しい。

そして早く幸せになって欲しい。

不幸のどん底に居る、あの姿を目にしてしまったら、その思いが止まらなかった。

あの男は、執事として有能だった。

だからここを任せ、一刻も早く沙都子様をお幸せにしたいと、ただそれだけだったのに…

こんな不安を抱えることになってしまうとは。

執事としての苦悩ではなく、男として苦しむことになるとは。

思っても居なかった。



顔を埋めたクッションをぎゅっと抱きしめ、ひたすら沙都子様の肢体をまぶたに映した。

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