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お嬢様と二人の執事

第6章 過去

幼いころは、それでも幸せだったと思う。

父親は小さな工場に勤め、母親は東堂家の使用人として長年勤めていた。

貧しいながらも、なんとか親子3人で平和に暮らしていた。

俺が小学5年生になる頃、父親が死んだ。

前の日、頭が痛いと言っていた。

次の朝起きてみたら、既に息を引き取っていた。

病名はなんだったか覚えていない。

その日から、俺の日常は大きく変わっていくことになる。



「一也。会ってほしい人が居るの」

東堂から帰ってきた母親が、頬を染めながら言う。

なんとなく、男ができたのだとわかった。

父親が死んで、まだ一年も経っていなかった。

そんな母親を憎いと思った。

俺よりも、その男を選んだとも思った。

男は、東堂家に出入りしている業者だという。

紹介された次の日、男はいきなり家に転がり込んできた。

狭い家のことで、何も準備していなかったから、仕方なくその晩は3人で布団を並べて寝た。

その夜…

隣から母親の苦しげな息遣いが聞こえた。

まさか突然の病気にでも掛かったかと、身体を返す。

しかし、そこに母親の姿はなかった。

だらしない腹の男と絡みあう、淫乱な女がそこに居るだけだった。

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