お嬢様と二人の執事
第8章 惑い
腕の中でまどろむ愛しい人を見つめながら神山は眠れずにいた。
小さく寝息をたてる暖かな存在とその後ろに見えるあいつ…。
もう何年も同じ屋敷にいながら、互いに触れないように微妙な距離を保ってきた。
その距離が崩れた。
腕のなかの沙都子が自分たちの前に現れた時、何かが変わった。
その変化に気がついていたはずなのに俺たちはお互いにそれを無視したんだ。
そこに気がついてしまったら…。
なんとか保っていたバランスが崩れるのがわかっていた…。
神山の脳裏に浮かぶのはあの日のこと。
初めて高宮にあった日のこと。
神山の意識はあの日に戻る…。
あの日、亘様の命により出向いた古い平屋の玄関で見た高宮はしごくアンバランスに見えた。
自分より2つ年下とだと聞いていたその子は、諦めと悲しみに満ちた瞳をしていた。
年齢にしては小柄な体。
なのに言動はやたらに大人びていた。
子どもなのか、大人なのか?
そこにあるのは達観なのか、諦めなのか?
見た目と纏う空気がちぐはぐで、なんだかとても危うい気がした。
亘様の意向を聞いて一瞬、驚いた顔をした高宮。
でもすぐに金持ちの施しは承けないと言わんばかりの強い瞳で俺を見た。
違う…亘様の気持ちはそんな下世話なものではない。
敬愛する亘様の気持ちをわかってもらえるように懸命に説得した。