お嬢様と二人の執事
第8章 惑い
何が高宮の気持ちに触れたのかはわからなかったがそれでも最後には納得して承諾してくれた時…ものすごくほっとした。
亘様の命を果たせたこともだが、なによりも高宮が一緒に屋敷にいるようになることが嬉しかった。
あんな瞳をしていた子どもを一人にすることなんて出来ないと思った。
そして…その瞳の理由を知りたい、救いたいと思ったから…。
屋敷に来た高宮は事あるごとに神山に突っかかってきた。
しかしそんな高宮の態度に神山自身がイラつくことはなかった。
屋敷のほかの大人たちが高宮を注意するほどだったが神山は気にはならなかった。
むしろそんな高宮の態度をかわいいとさえ思っていた。
本当は甘えたいのに甘え方がわからなくて突っかかってくる高宮。
それがわかっていたからなんとも思わなかった。
自分にはいない弟ができたような感覚だったのかもしれない。
子犬のように噛みつく高宮を神山は余裕の目で見ていた。
神山には兄がいた。
しかし神山はその兄に対して甘えた記憶はなかった。
優秀すぎる兄…。
自分はそんな優秀な兄の陰で劣等感に苛まれながら身を小さくして生きていた日々。
それが自分の身を守る最善の策だと信じていた。
そんな自分に訪れた大きな転機。
きっかけはほんの些細なことだった。
しかし…そのとき差し伸べてくださった亘様の手を取ったことで自分は光の当たる場所に立つことができるようになった。
そんな自分に高宮を投影したかったのかもしれない。