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お嬢様と二人の執事

第9章 雪の降る街

湯気の中でゆったりとバスタブに凭れ、腕には沙都子を抱いている。

沙都子は大人しく神山の腕に身を任せている。

二人の間に言葉はない。

だが触れ合っている肌は雄弁に物を語っていた。

互いを欲して熱くなっている。

だが、性急な行動に移せないのは二人の間にはやはり高宮がいるからだった。

高宮の目が、自分たちを見つめている。

チラチラと目の前をあの淋しげな瞳が通り過ぎていくようだった。

「沙都子様…お身体を流しましょう」

神山が立ち上がり、二人は離れた。

沙都子の身体を洗い流すと、沙都子の手が神山の胸に触れた。

そのまま唇を寄せると、神山の胸板に吸い付く。

「沙都子様…」

きゅっと歯で噛まれ、小さな痛みが走っていく。

「酷い方だ…」

それでも沙都子の唇は神山を吸って離さない。

やがて神山の胸に紫色の小さな痣ができると、沙都子は満足した。

神山に抱きつくと、目を閉じた。

「離さないで…」

まるで巨大な迷路で、はぐれてしまった子供のようだった。

神山にはその心が痛いほどわかった。

神山の心もまた、迷路に入ったまま出てこれないのだから。

それは高宮も一緒だろう。

この館の女主人を巡って、二人の有能な執事は闇の中に居た。

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