お嬢様と二人の執事
第10章 旅立ち
例年よりも早い桜の開花に街は華やぎをみせる。
桜の花はなぜ、こんなにも人の心を捕らえるのか?
沙都子は流れる景色の中、そんなことを考えていた。
「沙都子、どうした?具合でも悪いか?」
隣に座る亘の声に沙都子は微笑みながら顔を向ける。
「いいえ、お祖父様、大丈夫です。ただ、本当に卒業するんだと思って…。」
目線を自らの膝に落とす。
目に入るのは紺色の女袴。
今朝、白河が綺麗に着付けたその着物と袴は母親である雪芽が身につけていたものだという。
白河は着付けが終わり、髪を整えた沙都子を見て涙ぐんでいた。
「沙都子様…ご卒業おめでとうございます。あの日の雪芽様のように輝いていらっしゃる。どうぞこれからもご自身の道を、自信を持って進んでいってくださいませ。」
白河の言う『自信をもって』この一言が重くのしかかる。
未だに神山と高宮の間を揺蕩っている自分。
4月になれば社会人として社会に出ることになる。
麻紗と絢には就職しないと言っていたが将来、東堂の人間としてたくさんの企業を導く立場になるのならば、やはり社会経験は必要だと思った。
どんな人がどんな思いで日々働いているのかを知りたいと思った。
亘にそのことを告げると、亘は綺麗な笑顔で一つ頷いた。
そして…数日後には東堂の中枢企業の一つである商社の内定がでた。
同時に高宮にも新たな業務が申し渡された。