お嬢様と二人の執事
第10章 旅立ち
自分の手元を見て押し黙ってしまった沙都子に亘が再び声をかける。
「沙都子、笑ってなさい。笑っているとね、自然と幸福がやってくる。それはすぐじゃないかもしれないが、きっとやってくる。
沙都子がなにを思い悩んでるのかは、年寄りにはわからないが、沙都子が幸せになるのなら、いつでもその選択を応援するよ。
それが出来ずに雪芽たちには申し訳ないことをしたからな。」
亘の顔に一瞬、苦悩が浮かんだがそれを打ち消すように笑みを浮かべる。
「さぁ、まもなく大学に着くな。沙都子は友だちと過ごすのだろう?私は式を見たら帰るからゆっくりするといい。」
そう言うと亘は運転手に車を大学の来客用の駐車場にまわすように指示する。
「沙都子、ここから講堂まで歩くことになるが平気か?」
亘が心配そうに沙都子を見る。
その表情は孫の心配をする祖父の顔以外のなにものでもなかった。
「はい、大丈夫です。駐車場の少し先のところでお友達と待ち合わせしているので。」
にこりと笑うその顔には先ほどまでの翳りはなかった。
駐車場に停められた車から外に出た二人。
亘に近くまでエスコートされる。
沙都子は隣にいる亘に尋ねた。
「お祖父様、卒業式が終わったらすぐどちらかに行かれる予定ですか?」
卒業したら麻紗と絢とも別れることになる。
その前に…二人に会ってほしいと思った。
自分にとってとても大事な二人だから…。