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お嬢様と二人の執事

第11章 桜

4月1日

東堂グループの入社式が行われた。

紀尾井町のホールを貸し切って、グループ会社一同の入社式だった。

沙都子もこの入社式に参加した。

社会経験のない沙都子は、他の新入社員同様、研修を受けることを希望した。

同期の社員と共に成長することを願ったのだ。

亘は高宮と相談し、配属する部署の長に高宮を置くことを条件にこれを飲んだ。

孫娘が心配である親心と、いよいよ高宮の経営の手腕が必要になってきたためである。

高齢の亘には、もう時代の流れを読むことが苦痛になっていた。

高宮の上げてくる情報は、とても亘を助けており、いよいよ東堂の本社で、高宮の手腕を必要とするところまで来ていた。

「会長…では、館のことは…」

そのことを告げられた時、普段動揺しない高宮の目が、珍しく揺れた。

「館は神山に任せる。城の調子が大分いいのでな。家令の職に充分耐えうると判断した」

「はい…畏まりました」

高宮が一礼して部屋を出て行くと、亘は神山に話しかけた。

「高宮の様子がおかしいな」

「左様でございましたか?」

「む?」

「私には普段通りに見えましたが」

「神山…」

「はい?」

「紅茶が零れておる」

「あっ…」

カップどころか、トレイからも溢れそうな程、紅茶が溢れていた。

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