お嬢様と二人の執事
第13章 未来への階
ガラス張りのビルを前に沙都子は緊張していた。
今から踏み出す一歩の大きさに足がすくむ。
その後ろにさりげなく立った高宮がさりげなく声をかける。
「沙都子様、大丈夫です。自信をもってください。貴女ならうまくやれます。」
高宮がにこやかに笑う。
「貴女の後ろには常に私たちがいます。だから沙都子様は胸を張って前を見て歩いてください。」
沙都子はここに至る経緯を思い出しながら、いつもよりも少し硬めの笑顔で高宮に応えた。
ここにいるのは高宮のみ。
でもここにいない神山も別の形で自分のことを支えてくれている。
そう思って、きっと前を見た。
亘の体調が思わしくなくなり、表舞台から徐々に退き始めた頃から東堂グループに少しずつ見え始めた小さな綻び。
亘の手腕と絶対的なカリスマ性で統制されていた東堂グループも時とともにいくつものゆがみや歯車の狂いが出てきた。
小さな問題に関しては各社の社内で都度、対応してきた。
しかしここにきて、大きな不祥事が立て続けに発覚した。
さすがに東堂の家自体が黙っているわけにはいかない状況になった。
腐り始めた組織は早めに手を入れないと手遅れになる。
そこで緊急の取締役会が開かれた。
緊急の事態に亘も出席することになり、その場に沙都子も呼ばれた。
高宮とともに…。