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お嬢様と二人の執事

第14章 遠い道

軽井沢から帰ってから、沙都子の元気がずっとなかった。

神山も高宮もその原因には気づいていたのだが、どうすることもできずにいた。

”花嫁姿を見ることができるかな”

そう亘が呟いたことであろうとは察しがついている。

だが、今の状況で神山か高宮のどちらかと結婚するという判断は沙都子にはできないだろう。

今では神山も高宮も、沙都子がどちらも愛していると心底わかっている。

そしてその愛は、沙都子の強固な意思でどちらにも傾くこともないことも分かっている。

なにより使用人と女主人という身分の壁。

現代において、その壁はだいぶ薄くなったとはいえ、現役の使用人をそのまま伴侶にするには、あまりにも東堂の家は歴史がありすぎた。

夕暮れ、オフィスの窓から外を見遣る沙都子の背中は少し小さく見える。

「沙都子様…」

高宮が声を掛けても、沙都子は気づかない。

それほど沙都子の悩みは深い。



ひと月が経ち、絢と麻紗を迎える準備が整った。

一段落ついたので、休日に沙都子は、絢と麻紗を誘って出かけていった。

神山と高宮は屋敷に残った。

その日は二人のミーティングに充てた。

まだ沙都子の耳に入れるまでもない情報の交換などを中心に行った。

その最中、神山の携帯が鳴った。

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