お嬢様と二人の執事
第3章 もう一人の執事
神山の逞しい腕に抱かれ身を灼くような快感に溺れた後に待っていたのは残酷なまでの現実だった。
先程までの熱い雄の眼が違う色を纏い、その身を狂わせる言葉を紡いだ唇が冷淡な言葉を吐き出す。
これはレクチャーだと。
沙都子に与えられるべき教育の一環であると…。
沙都子の顔に陰がおちる。
縋りたかった…。
今だけでいい、この瞬間だけでも恋人のようにと願い、その願いが通じたと思ったのは…間違いだったと痛感させられた。
それがすこく辛かった。
沙都子はこみ上げてくる感情を圧し殺すようにベッドの上で神山に背を向ける。
泣いちゃダメだと何度も何度も自分に言い聞かせた。
神山が身支度を整え、まるでなにも無かったように部屋を出たあと、沙都子はフラフラとバスルームに向かう。
いつでも使えるように用意されているバスルーム。
シャワーの蛇口を捻り頭からお湯を被る。
熱いお湯を浴びながら沙都子は泣いた。
溢れてくる涙を止めることもせず感情のままに泣き続けた。
いっそ、全て夢だったらとも思うのに、太ももの内側に一つだけ付いていた咲いたように紅い痕がそれは現実だと知らしめた。
自分の身を抱き締めながら沙都子は声に出してその名を呼ぶ。
「神山さん…。
…悟……。どうして…」
沙都子の問いに答えは返らない。
ただシャワーの奏でる水音だけが響いた。