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お嬢様と二人の執事

第3章 もう一人の執事

高宮side



手に、沙都子様の感触が残る。

なんとか部屋を整えると、逃げるように部屋から出た。

廊下を歩きながら、胸を掻き毟る。

切なかった…。

胸が痛んだ…。

沙都子様の心が神山にあることは、わかっている。

でも、情事の最後に沙都子様が口にした言葉…。

”好き”だと。

流されて言った言葉だとわかっている。

わかっているが、これほど嬉しい言葉はなかった。

しかし現実は、沙都子様の心は神山が掴んで離さない。

「沙都子様…」

利用してやると思っていた。

あんな小娘、優しくしてやればすぐに落ちると思っていた。

だが、目の前に現れた沙都子様は素直で、汚れていなかった。

まるで温室ででも育てられたかのように、穏やかで。

そして気高い。

俺の理想とする女性そのものだった。

今日抱くまで、まだ理性は保っていたつもりだ。

沙都子様を利用して、のしあがってやろうという野心もまだあった。

だが、どうだ。

10歳以上年の離れたお嬢様を抱いて、この体たらく。

笑いがこみ上げてくる。

「惚れたよ…沙都子様…」

俺はどうすればいい。

沙都子様を幸せにして差し上げたい。

どうすれば、あの春の陽気のような人に笑って貰える。

しんとする館内を歩きながら、革靴の先を見つめた。

「神山…」

あの男に、委ねるしかないのだろうか。

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