
不透明な男
第12章 惑乱
Aは俺に優しく唇を這わせてくる。
俺はそんな暖かい愛撫を止める。
智「そんなのいいから、早く…」
そう言うと、俺が受け入れやすくなるように後ろを解そうとする。
智「だから、いいんだってば」
A「無茶言うな」
脱ぎ捨てた上着から、ローションの入った小袋を取り出し
俺の言葉を無視して塗り付けてきた。
智「そんなの要らない…」
A「後で辛くなるぞ?」
智「俺なんか、それくらいでいいんだよ…」
そう言う俺を押さえ付けると、少し悲しい目をしながら俺の訴えとは真逆の愛撫をしてくる。
智「んん…っ、は、い、いいって言ってんだろ…」
A「そんな悲しそうな顔見せる奴に、酷い事出来るかよ…」
悲しい?俺が?
智「何、言って…、悲しそうな顔してるのは、そっちでしょ」
A「自分で分からないのか?…今だけの事を言ってるんじゃないんだ」
智「んぅ…っ」
何言ってんだコイツ。
俺がいつそんな顔したって言うんだよ。
A「ここまで話したんなら隠してても仕方ないから言うが、俺は社長を恨んでいる」
智「はっ、はぁ…っ」
A「お前もそうじゃないのか…?」
智「んぁっ、あ」
あの青年の事だろう。
青年の行方を知りたいんだ。あの時、何があったのかも。
A「お前がその気なら、手を組む事だって出来るんだ」
智「ん…っ、手を、組む…?」
A「目的が同じならな…っ」
智「お、お前の、目的って…な、に」
はぁ、はぁと、荒い呼吸をしながらAは俺を見つめて言う。
A「アイツの話次第では、殺すかもな…」
アイツの話次第。
そんなの聞かなくても俺は知っている。
この、真実を知ったらどうするんだろうか。
社長を怨み殺すのか、それとも呑気に生きてきた俺を殺すのか。
智「んぁ、あっ、そ、それなら」
なんだ?と汗を滴らせながら俺を覗き込む。
智「社長を殺した後、おれを、殺して」
A「は…?」
眉を歪ませ俺を見る。
動く事を忘れてしまったAに俺は笑いかけた。
どうせ殺すなら、ひとりもふたりも同じでしょと。
