
不透明な男
第12章 惑乱
暗い部屋で目が覚めた。
どうやらあのまま眠ったらしい。
俺は絵を裏返すと、気を奮い立たせる為に熱いシャワーを浴びた。
起きているのになんだか頭がぼーっとする。
熱いシャワーを頭から浴びているにも関わらず、俺の脳は何も動こうとしなかった。
智「翔くん」
翔「お、大野さんっ?」
俺をつけ狙っている何を考えているかも分からない奴。
その筈の翔の所に、何故か俺は来ていた。
智「今日は何時まで?」
翔「えっ?あ、もうそろそろ」
智「だと思った」
まだ昼前だった。
だけど、そろそろ早上がりの日なんじゃないかと思った。
翔「え、なんで知ってるんですか」
智「なんとなく?」
当直だったのだろう。
翔は少し疲れた顔をしていた。
智「今日は外でランチしよ?」
翔「え、病院に用事があるんじゃないんですか?」
智「ないよ?翔くんとお昼食べようと思っただけ」
なんだ今日はどうした。
脳は何も働いていないのに、俺の口が勝手に話し出す。
あまりにしれっと話すもんだから、翔だって少し驚いている。
智「こんな用じゃ、来ちゃいけなかったかな」
翔「そんな事っ!ある訳、ないでしょう?」
ふふっと、翔は俺に向かって優しく笑った。
そうか、俺は、この暖かい空気に触れたかったんだな。
だから足が勝手にここに連れてきたんだ。
智「取り敢えず、そこのカフェで待ってるね?」
翔「本当すぐなんで、ちょっと待ってて下さい」
翔は少し焦りながら話した。
この間、俺が素っ気なく帰ってしまったからだろう。
勝手に帰らないでね、すぐ来るからと、翔の瞳はそう言っていた。
智「そんな焦んなくても。…待ってるから」
本当に俺はどうしたんだ。
翔に対しての疑心も止まらなかった。
なんなんだコイツは、何が目的なんだと、毎日頭を悩ませた。
暖かい空気と、刺す様な視線を併せ持つ。
お前の真意はなんなんだと、問い詰めたくて仕方がなかった。
そんな奴に、俺は、会いたかったんだ。
