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不透明な男

第12章 惑乱


翔「ここ、最近出来たらしいですよ」

智「へえ、可愛い店だね」


何が食べたい?と聞く翔に、俺は何でもいいよと答えた。
すると、リサーチしていたであろう小洒落た店に連れてこられた。


翔「珍しいですね」

智「なにが?」

翔「わざわざ誘いに来てくれるなんて」


俺を見てニコッと笑う。
会えて嬉しいよと言わんばかりのその表情に、俺は思わず首を傾げそうになった。


翔「…で、わざわざ来てくれたのになんでそんな顔してるんですか?」

智「へ?」

翔「ちっとも笑わないじゃないですか」

智「え…」


あれ、俺笑ってなかったかな?
いつもは翔の顔を見てふわっと笑いかけるんだ。
そうすると翔が照れるから。だからわざとやってるんだ。
なのに今日はそれを忘れていた。


翔「何か、あったんですか?」

智「いや、特には…」


本当に?と言う様な目で俺を見る。


翔「大野さん、最近何してるんですか…?」


コイツは何を聞いているのだろう。
病院に来なくなった俺の近況を聞きたいと言う訳でも無さそうなその言葉に、俺は何と答えればいい?


智「や、別に普通だよ?」

翔「普通?」


俺の瞳の奥を見る。
濁った瞳がバレてしまいそうで、俺は思わず目を伏せた。


翔「貴方の、普通って何…」


あの廃墟まで着いてきてるんだ。
俺の事なんていつも見てるんだろう。


翔「そんなのじゃ無かったでしょう…?」


そんなの。
そんなのって、何を指している?
いつの俺と比べてるんだ。


智「おれはいつもこんなだよ?」


ふふっと笑った。
目を伏せたまま、それでもちゃんと笑ってると分かる様に。


翔「なんでそんな事してるんです…」


俺が髪を黒くして出掛けている所も見ているだろうし、男に抱かれている事だって知っているだろう。

それをひっくるめて翔は言っているのだろうか。


智「…そんな事って、どんな事だよ」


もう、顔を上げてもいいか。
俺の濁った瞳なんて、翔には既にバレてるんだ。


智「おれの、何を知ってるの…?」




俺は、その不透明な瞳で翔を見つめた。




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