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不透明な男

第12章 惑乱


顔を上げた俺は翔と視線を合わせた。
その俺の目に、翔が写る。


智「あ…、ごめんね?」

翔「え?」

智「眠いよね」


俺は翔の頬に手を沿え、目の下を親指で軽く触れた。


智「ふふ、隈出来てる」


疲れた顔の奥に、悲しそうな表情を滲ませていた。


翔「…あ」

智「最近寝れてないんでしょ?おれより酷いよ」


勤務時間も長いだろうに、翔は連日連夜、俺を見張っていた。
そりゃ隈も出来て当然だ。


智「翔くんこそ何してるの?」

翔「え?」

智「こんな隈出来るまで寝ないで…、何、やってるの?」


問い詰める訳じゃ無い。
聞きたいんだ。理由が分からない。

翔が答えやすい様に、俺は出来るだけ柔らかい空気を纏う。


智「教えて?」


悲しそうな表情を仕舞い込み、翔は笑った。


翔「ちょっと、忙しかっただけですよ」


これ位、心配には及びませんよと、翔は笑い続けた。


智「…そっか」

翔「ええ(笑)」


なんで教えてくれないんだ。
隠されれば隠されるほど、俺は疑ってしまう。


智「ふふ、そんな可笑しい?」

翔「だって、貴方の方が眠れてないでしょうに僕の心配なんて」

智「そんな隈出来てたら心配するでしょ普通」

翔「だから僕はいつも貴方の心配をしてるんですよ(笑)?」


その笑顔は本物か?
その、悲しそうな顔は本当なのか?


智「おれは大丈夫だよ」


なんだろう、胸が痛い。


智「意外とタフなんだよ?」


どうして隠す?


智「そんな見てなくても大丈夫なんだから」

翔「え?」


俺の問いに答えず誤魔化した。


智「だから心配しないで?」



拒絶されたように感じた。


ぽっかり穴を開けられたような、そんな感じがして。


俺の胸はスカスカして軽くなった筈なのに、何故か痛むんだ。





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