
不透明な男
第12章 惑乱
翔「やっぱり今日の大野さん、少しヘンですよ」
智「え?」
俺は翔に笑顔を向けている。
ふんわりと笑って、俺の心が見えない様に膜を張っているんだ。
翔「笑ってるのに、泣きそうな顔してますよ…?」
ベールで覆っている筈の俺の顔を翔は見ていた。
俺の奥まで見ようと目をこらしてくる。
翔「せっかく天気もいい事ですし、ドライブでも行きます?」
俺を心配そうに見た後、ニコッと笑ってそんな事を言う。
普通の人間なら、元気づけようとしている、そんな素振りを見せた。
だから俺も言ってやったんだ。
翔の隈に指を這わせて、少し微笑みながら。
智「ふふ、駄目だよ」
翔「どうして?まだ、こんな時間ですし…」
翔は少しビクッとした。
俺が翔に触れたから驚いただけなのか、それとも嫌悪で怯えたのか。
智「だって」
翔「だって?」
智「目、真っ赤だよ?事故っちゃうでしょ」
大丈夫です、今は眠くないと言う翔の耳に唇を寄せる。
智「だめ。帰ってちゃんと寝て?」
耳元で小さく囁く様に言うと、俺はふんわり笑いながら手を離した。
離れていく俺の顔を、翔は丸い目で見ていた。
翔「本当に大丈夫なのに…」
智「俺を道連れにする気?」
翔「えっ」
智「今隣に乗ったら絶対死んじゃうよ(笑)」
翔「ひどっ」
そんなに信用無いの?と項垂れる翔の頭上に笑い声を飛ばす。
智「ふふっ、取り敢えず今日は帰って?ちゃんと寝るんだよ?」
翔「わかりましたよ…」
少し不貞腐れる翔に俺は釘を刺す。
智「ほんとに分かったの?ちゃんと、家に帰るんだよ…?」
釘を刺す俺を、翔は少し口を開けて見た。
何か言いたいのか、それとも言葉が出ないのか。
智「聞いてるの翔くん?」
翔「あっ、はい」
俺の言葉の意味分かってるの?
着いて来るなって言ってんだよ?
智「じゃあ、またね? 真っ直ぐ帰るんだよ?」
立ち上がった俺を、翔は言葉を詰まらせたまま見上げた。
お前が着いてきてる事、知ってるよ?
俺を見張ってる事、知ってるんだよ?
俺は、濁った瞳で翔に伝えたんだ。
言葉には出してないから、理解してくれたかどうかは分からないけど。
