
不透明な男
第12章 惑乱
社「そろそろ行こうか」
智「はい」
今日は夫人と逢う日だった。
ひとりで行けると言う俺に、心配だからと社長は送迎を申し出た。
勿論断ったが、どうしてもと引かずに俺は、連行される様に夫人の待つホテルへと連れて行かれた。
智「社に戻らなくていいんですか?」
社「少し時間があるからな。ついでに息抜きして行くよ」
俺が夫人を抱いている間に息抜きをしてくると言う。
どうせまたカメラでも仕込んでいるんだろう。
それを見て息抜きとはいい気なモンだな。
社「…そんな顔をするな。二時間後にはここで待っててやる」
智「わかりました…」
ホテルに着いた俺は、少し悲しそうな顔をしてみた。
そんな俺の頭を社長はくしゃっと撫でて笑った。
社「私の事を酷い奴だと思っただろう?」
智「いえ、そんな」
少し目を潤ませて社長を見た。
すると、俺の手をきゅっと握って耳元で社長は囁いた。
社「もうこれきりだ。…誰が欲しがってもお前はやらない」
だから安心しろと、笑みを溢しながら俺に言い聞かせた。
俺はそんな社長をじっと見てやるんだ。
は?何言ってんだクソが。お前のモノになんてなる訳無いだろう、バカじゃねえのと心で悪態をつきながら。
智「二時間後には、必ず来てくださいね…?」
社「ははっ、大丈夫だ。必ず迎えに来る」
満足そうに笑う社長に背を向け、俺はホテルに入った。
その間抜け面、しっかり覚えてやる。
ガチャ
「いらっしゃい、領くん」
智「お久し振りです」
固い挨拶はいいから早く入ってと促され、俺は引き込まれる様に部屋に入る。
智「…これは?」
「ふふっ」
智「僕に、縛られたいんですか?」
豪華なスイートルームには、これまた立派なベッドが佇んでいた。
その上に、この綺麗な部屋には不釣り合いな拘束グッズが並んでいた。
「違うわよ?」
智「え?」
「縛られるのは、あ、な、た♪」
は?
「この間は私の好きにさせてくれなかったでしょう?」
智「え、ちょ…」
社長に何らかの入れ知恵をされたな。
智「ふ、夫人、ちょっと、待っ…」
「駄目よ。待ったらまた貴方の言いなりでしょ?」
押し倒された俺の視界に、赤く点るカメラが見えた。
