
不透明な男
第12章 惑乱
全くなんだってこんな事。
縛られるのはあまり好きじゃないんだけどな、と思う俺は既に押し倒されている。
智「え、本当に…?」
「当たり前でしょ」
俺の上に乗ってニコニコと笑いながら上着を脱がしていく。
カチャカチャと金属音がすると、俺の腕は頭上で固定されてしまった。
あっという間の出来事で、あまりの素早い行動に俺は少し面食らった。
「ふふ…、セクシーね」
智「そんな事、ある訳無いでしょう…?」
少し困った様に眉を寄せ、夫人を見てやる。
そうすると凄く嬉しそうな顔を見せた。
智「あ…、ちょっと、まだ、心の準備が」
「そんなのさせないわよ?」
急ぎすぎだろう。
全くどいつもこいつも。そんなに俺の困った顔が好きなのか。
智「ん…、だ、駄目ですって」
「駄目じゃないの」
智「…っ、は」
「ふふっ」
楽しそうだなおい。
まあ、リードしなくて済むんだったら楽だけども。
だけど手を出さずに喜ばせるのって大変なんだぞ?
言葉と顔で表現しなくちゃならないんだ。
これは相当疲れるな。
智「あ…、ふ、夫人、服を」
「なあに?」
智「脱ぎたいので、コレ、外して貰えませんか…?」
「…だめ。そんな事言って、もう捕まえさせてくれないつもりでしょ」
皺になっても大丈夫よ、貴方に似合うスーツを見付けてきたのと、俺の服なんて最初からぐちゃぐちゃにするつもりだったらしい。
「ふふっ、今日は大人しくしててね…?」
まあ、本当に嫌なら簡単に蹴り飛ばせるんだけど。
でもこの手錠は外れそうに無いし、そもそもそんな事しちゃいけない立場なんだろうし。
この女は俺を押さえ付けて喜んでいるし、リアルタイムで見ているであろう社長もきっとヨダレ位垂らしているんだろう。
智「な、何をする気ですか…」
「こういうのは初めてなの?…結構興奮するんだから」
俺の首に顔を埋めている間に目を動かして部屋を確認する。
カメラは数台隠されているらしいが、音声はどうだろう。
鞄に入れてきた盗聴発見器も反応していなさそうだし、小声で話す位なら問題無さそうだ。
智「縛られた事なんてありませんよ…」
聞きたい事もあったし、機嫌を取るとするか…。
