レモンスカッシュ
第3章 M/O
M side
何も考えたくなくて、
逃げるように相葉くんの家に押しかけた。
「え?え?松潤?」
「いけなかった?」
「いや、ダメではないけど…。」
困惑してる相葉くんを置いて、
かまわずリビングへ向かって、
ビールを飲み始める。
そんな俺を攻めたりせずに、
面倒くさそうな顔もせずに、
「いい飲みっぷりだねー。」
なんて笑ってくれてる。
いいヤツなんだよな。
「今日の事でしょ?」
酒も回ってきた頃、相葉くんが切り出した。
「うん…。」
「珍しいね、2人が言い合いしてるのって。」
グラスを傾けながら言ってる。
智と付き合いだしたのも、
今日みたいな寒い日だった。
もう随分前のこと。
俺の家で一緒に飲んで。
今日こそは言おうって、
決意してビールを飲んでた時、
「ねぇ、松潤。」
「んー?」
「好き。」
「…は?」
突然の智からの告白。
だけどそれから、
俺たちの恋人生活は始まったんだ。
2人で一緒に過ごして、
一緒に住むようにもなって…。
俺の首にかかってるのは、
チェーンを通した指輪。
「はい。これ。」
俺の手作りだよ。って、
ちょうど付き合って5年目の記念日に
智がくれたんだ。
今着てるセーターも、
身につけてるマフラーも、
履いてたスニーカーも。
全部智からの贈り物。
いつだって智は、俺のそばにいるんだよ。
仕事で地方にいても、
ずっとずっと心はそばにいた。
なのに…、
何で今はこんなに遠いんだろ。
俺のやりたい事を誰よりも理解してくれて、
誰よりも応援してくれてた。
コンサートの事だって、真剣に考えてくれてた。
俺がどれだけコンサートに力を
入れてるのかも、1番分かっててくれた。
デビューしてから悩んでた時期も、
ずっと近くにいてくれた。
誰よりも近くで、俺のことを見てくれてた。
そんな智を、俺は傷付けたんだ。
「俺、どうしよう…。」
ため息と共に漏れるのは、情けない声。
「智…。」
名前を呼んだって、聞こえないのに。